第一夜 「スキマ」と「空き」と「余白」

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本稿は、都市の「スキマ」とは何か、そして、「スキマ」が存在する意味や可能性を考えることがテーマである。そのためには、まず、この「スキマ」の定義を考える必要がある。

私の考えるスキマの定義はこうだ。「ある有限な場において、『意味を与えられ、かつ、境界を備えた領域』が複数存在する時、この領域に属さないものを『スキマ』という」。付け加えるなら、この定義の中には、「意味を与えられ、かつ境界を備えた領域」というのが主人公で、スキマをそれ以外と考える暗黙の了解が存在する。スキマは、結果的として機能や役割を果たすことがあったとしても、その意味の世界の中では、あくまでオマケに過ぎない。この定義は、空間にも時間にも共通するものだ。

都市空間の中でみると、建物と敷地境界の間や、道路と建物の間のスペースなどが、一般的なスキマに該当する。都市においては、通常は、土地や建物は経済的な価値に置き換えて考えられているから、スキマは通常、無駄と考えられ、できるだけその量を減らそうとする意識が働く。

これに対して、「空き」とは、「意味を与えられ、かつ境界を備えた領域」の中身のない状態を指す。空洞化が進む市街地では、一見、スキマと空きとの区別がつきにくくなるが、これは別物である。一方で、経済的価値があるとわかっていて、あえて空間として残すことに価値をおいたものは「余白」と呼べる。ビルを建てる際に、周囲にオープンスペースを作ることで、容積や高さの規制緩和を受けるような場合はこれにあたる。その他にも、建築などで、エントランス付近に風格のある景観の印象を与えるために設けられたスペースなどもこれにあたるだろう。

次回以降は、このスキマと空きと余白との違いに注意しながら、都市におけるスキマの価値や可能性について考えてみることにしょう。

著者の考える定義。通風や物置、泥棒の脱げ道などの役割を果たすことはあっても、基本的にオマケ。
空き家。建物の領域は存在しても、家としての意味が失われている。
計画的に設置された公開空地。価値を生み出すための余白。

氏名:
西尾 京介

所属:
株式会社日建設計総合研究所 上席研究員

プロフィール:
大阪大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、日建設計入社。大規模都市開発の計画、都市のビジョン・戦略策定、都市交通計画、再開発等の調査・計画に従事。2006年より日建設計総合研究所で、中心市街地活性化やまちなか再生、公共空間の利活用や価値向上等に関する、国や自治体等のコンサルティングを手がける。一社)都市計画コンサルタント協会、公社)日本都市計画学会理事。