都市戦略としてのポップアップ

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「楽しそう!」「おしゃれ!」とポップアップに対して捉えられることが私はすごく悔しい。
確かにポップアップ(仮設的に都市に介入する装置)の一面かもしれないが、本質的にポップアップは作り込まれた固い都市が提供することができない価値を提供している。

私はポップアップの一つである、仮設店舗が集合するマーケット(市、マルシェ)を研究、実践している。
近年日本でも各地でマーケットが誕生し、特にここ数年はマーケットブームといえる状況にある。開催場所、目的、運営主体、規模、開催頻度と実に様々なマーケットがあり、たくさんのマーケットがうまれ、たくさんのマーケットが消滅している。
中には地域に定着し、日々の買い物の場、コミュニティの場として地域の魅力としてなくてはならないものになっているマーケットもある。

農家さんが直接販売し新規販路開拓へつなげる(埼玉県志木市)


新しいマーケットだけでなく、古くから続くマーケットも数は少ないが存在する。高知県高知市には道路にマーケットがたつ街路市が曜日を決めて複数の場所で開催されている。街路市は江戸時代から続き、現在は高知市により直接運営されている。高知市は街路市活性化構想を「生活市」を基本的な軸としたて、調査や活性化に取り組んでいる。

生活の一部として根付き雨天でも開催される街路市(高知県高知市)

行政がマーケットを直接運営する運営形態は日本では驚く方もいるかもしれないが、世界的に見ると多くの都市で行われている。
私が住んでいたロンドンでも行政がマーケットを直接運営している(一部、委託運営もあり)。
ではなぜ、行政がマーケットを直接運営するのか?
ロンドン市ではロンドン市長が発行する都市空間戦略の指針を示す「The London Plan(ロンドンプラン)」においてマーケットの効果が示され、ロンドンに必要な要素として市として推奨すると述べられている。ロンドンプランに記載されマーケットの効果は大きく3つ、「多様な市民の食生活に応える場」「中心市街地の活力向上」「国内外から人を集める観光資源」があげられている。

行政によるマーケットの調査も多数行われ、経済効果についても数値化され明らかにされている。運営手法については「London Local Authorities Act(ロンドン自治法)」に示され、警察の許可を得るなどして運営されている。
このようにロンドンではマーケットが都市戦略として明確に位置づけられている。

ロンドン市観光戦略に位置付けられるポートベロロードマーケット(ロンドン市)
低所得者が新鮮な野菜を安価に変える場としてのマーケット(ロンドン市)

日本においてもマーケットは地域経済の活性化、スタートアップの機会、コミュニティの形成、場所の魅力の向上など多様な効果が確認されている ※1。
現在の日本におけるポップアップブーム、マーケットブームが消費されず、都市を魅力的にし、都市に住む人々の暮らしを豊かにするツールとして定着するためには、マーケットの価値が認識され然るべき位置付けがなされていく必要があると考える。

※1 鈴木美央、マーケットでまちを変える 人が集まる公共空間のつくり方、学芸出版社、2018

人口4000人の村で村の魅力を伝える新しいメディアとして開催しているマーケット(群馬県片品村)

氏名:
鈴木美央
Mio SUZUKI

所属:
博士(工学)、建築家、マーケット(市・マルシェ)専門家

プロフィール:
O+Architecture(オープラスアーキテクチャー合同会社)代表社員。早稲田大学理工学部建築学科卒業。卒業後渡英、Foreign Office Architects ltdにてコンセプトステージから竣工まで世界各国で大規模プロジェクトを担当。帰国後、慶應義塾大学理工学研究科勤務を経て、同大学博士後期課程、博士(工学)取得。現在は建築意匠設計、行政・企業のコンサルティング、公共空間の利活用まで、建築や都市の在り方に関わる業務を多岐に行う。二児の母でもあり親子の居場所としてのまちの在り方も専門とする。著書「マーケットでまちを変える ~人が集まる公共空間のつくり方~」(学芸出版社)、第九回不動産協会賞受賞。