ECサイトとポップアップストアは相性が良い。

ECサイト間での競争が激化し、競合に打ち勝つか、取扱い商品を狭めてニッチな方向性に行くかの選択が迫られている。

数年前、大規模小売店のように様々な商品を取り揃えるAmazonや楽天市場がシェアを伸ばし続けるなかで、品目を絞った展開を行うECサイトが増えた。今となってはアパレルを始めとした人気商品にも大型プレイヤーが存在し、メルカリのようなC2C市場も出来上がり、ECサイトの市場規模は右肩上がりなものの、競合数も右肩上がり……。

そこで選択肢として現れてきたのが、オフラインに活路を見いだすポップアップストアだ。

ECサイトにおけるポップアップストアとは

そもそもポップアップストアとは、

“ポップアップストア(POP-UP STORE)とは期間限定の店舗のこと。催事スペースや駅構内の空いているスペース、空き店舗などに2週間〜1ヶ月程度出店することが多い。ECサイトのオフライン販促、海外ブランドの日本進出、新規キャンペーンのプロモーションなどで多く使われる。”

今さら聞けない「ポップアップストア」とは

ポップアップストアは、アパレル業界では比較的一般的。シーズンごとのコレクションで出店したり、ブランドイメージを向上させるために、デザインにこだわった出店をしたりする。

飲食業界では固定店舗を持っている前提なので、クリスマスシーズンに絞ってポップアップストアを出店したり、イベントに合わせて移動式のキッチンカーを出店したりと、売上を目的とした「別店」のようなイメージだ。

近年ECサイトで増えているポップアップストア出店は、当然取り扱っている商品によって目的が違う。飲食物を取り扱っている場合は、店頭で実際に味わってもらい、ECサイトやポップアップストアの売上を重視したポップアップストア。

アパレルや雑貨を扱っているECサイトは、店舗で試着できたり、肌触りを体感してもらうといったポップアップストアだが、店舗での売上を目的としているというより、ブランドイメージの向上やECサイトを認知してもらう側面が強い。

ECサイトとポップアップストアの相性の良さ1:O2Oマーケティング

ECサイトといっても、取り扱っている商品が様々で一括りにはできないが、ECサイト全体に言える「ポップアップストアとの相性の良さ」がある。まずポップアップストアを通してO2Oマーケティングを行えるという点だ。

O2Oマーケティングには2つの側面がある。オンラインtoオフラインとオフラインtoオンラインだ。

オンライン to オフラインは実店舗を持っているのならば当然のように行われている。食べログやぐるなびへの広告出稿や、Google Mapや検索画面に実店舗の場所を表示させるMEO、ブログやLINE@などだ。

またオフライン to オンラインは、看板広告や車内広告、テレビCMでECサイトへの流入を促す、広告出稿が一般的だった。ただし広告費用を投下できる会社限定ではあるが。

従来のO2Oマーケティングとポップアップストアの違いは、オンラインのECサイトとオフラインの実店舗を行き来するような仕組みを作ることができる点にある。

オンラインtoオフラインのパターン

ECサイトには、欲しい商品をすぐ買う消費者、レビューを見るといった情報収集段階の消費者、買うのを戸惑っている消費者といった様々な性質・フェイズが集まっている。

ポップアップストアを出店することで、購入の前段階の消費者をオフラインで集客することができるのだ。ポップアップストアでECサイトではカバーしきれない、情報収集や商品・サービスを体験できる場を設けることで、購入するまではなかった消費者の背中を押すことができる。

ECサイトの場合、購入するのはECサイトでもポップアップストアでも良いので、店頭で商品を多数置いてその場で売り上げるのも良いし、店頭では体験できるようなスペースを広く取って、ECサイトで売り上げるのも良い。

すでにECサイトの存在を知っている消費者に向けて、コンバージョンを上げる施策としてポップアップストアを使うことができるのだ。

オフラインtoオンラインのパターン

ポップアップストアは、ECサイトを認知していない消費者に向けて、実店舗からECサイトに流入させる施策としても機能する。

オンラインマーケティングはECサイトに興味がありそうな見込み客を流入させるのに強い。基本的にオンラインの広告手法は、個々人に合わせてカスタマイズされるからだ。

一方、オフラインでのマーケティングは受動的な消費者にリーチできる良さがある。自発的に行動せずオンラインでは埋もれてしまっていた見込み客を、オフラインで掘り起こせる可能性がある。

ポップアップストアでは、他の店に用があってたまたま見かけたり、時間つぶしでふらっと店内に入ったりと、消費者の目にとまりやすい。

言ってみれば本来ターゲットとなりうるが、オンラインで情報収集することがない消費者を集めることができる。情報収集するのは自発的な行動だが、ポップアップストアを目にするのは受動的な行動なので、心理的には大きな違いがある。ということは、今まで埋もれていた性質のターゲットを掘り起こせる可能性があるのだ。

オンラインマーケティングではリーチできずECサイトを認知していないターゲットでも、ポップアップストアのオフライン上では認知してもらいやすくなる。ポップアップストアでは、「ポップアップストア限定! ECサイトより10%引き」や「商品購入しなくても会員登録するだけで今なら500ポイントプレゼント」といったキャンペーンを打つことで、ECサイトへの導線を設置するのが良いだろう。

オンラインとオフライン双方向のマーケティングを

ECサイトを運営している会社にとって、ポップアップストアはオンライン・オフライン双方向の意味合いがある。オンラインtoオフラインもオフラインtoオンラインも二律相反するものではない。こっちを取ったらあっちが立たないというわけではないのだ。

ECサイトを認知している消費者がポップアップストアに訪れることも、ポップアップストアを先に知って、ECサイトを認知してもらうことも両立できる。いかに両立するかは、ポップアップストアの特別感だったり、いかにお客様を楽しませせるかだったりが大切だ。

固定店舗では売上がメインとなる。ポップアップストアでは消費者に楽しんでもらうといった「イベントに行くような感覚を提供できるか」がメインだ。

ポップアップストアは期間限定なので、それ自体に「イベント性」がある。後は、店舗の内装で特別感を出したり、商品の体験やキャンペーンで楽しんでもらったりするとなお良い。「10%引き」といったキャンペーン自体は「売上のため」のものなので、「お客様を楽しませるため」のキャンペーンを打ち出せるとなお良い。

ECサイトとポップアップストアの相性の良さ2:高い話題性

アパレル業界や飲食業界をはじめ、ざまざまな業界からポップアップストアは出店されているが、ECサイトのポップアップストア出店は特に話題になることが多い。

上記の業界は固定店舗をすでに運営していることが多いのに対して、ほとんどのECサイトには実店舗がない。そこでポップアップストアを出店するというのは、消費者やメディアから驚きを持って迎えられることが多いのだ。

ポップアップストアがまだまだ浸透していない日本だからこそ、出店する競合他社は少なく、しかも消費者に斬新で新鮮な印象を与える。ECサイトのポップアップストアとなれば、出店すること自体に話題性を帯びてくる。

ポップアップストアと聞くと、販売目的でしかないと感じる担当者が多い。たしかに「お店自体がマーケティングの一環」だったり「売上を重視しない店舗」に馴染みがないのもうなずける。

しかしポップアップストアにはオフラインの販売機能だけでなく、マーケティング機能があることを忘れてはならない。「話題になること」をポップアップストアの売上に繋げるのではなく、ECサイトの認知のためのマーケティングとして活用するというマインドセットを持つ必要がある。

ECサイトのようなオンラインで大量の消費者を相手にする業界は、比較的少数にしかリーチできないオフラインに抵抗感を持つ担当者は多い。しかし、それは売上目線になっているからである。

マーケティング目線に立つと「ECサイトのポップアップストアは話題になるか」という考え方だ。すると消費者全体といったマスではなく、インフルエンサーやメディアといったもっとミクロな観点が大切になる。

ECサイトによるポップアップストアの可能性

ポップアップストアには「オフライン」と「話題性」という2つの要素があった。

オンラインがメインとなるECサイトは、オフラインのポップアップストアを出店することで、新しいO2Oマーケティングを生み出すことができる。また、ポップアップストア自体がまだまだ新鮮な状況で、ECサイトによる出店は高い話題性を獲得する可能性があった。

ECサイトの競争が激しくなるなかでオフラインに活路を見いだすのは選択肢のひとつとして確かに存在する。オフラインにはない利便性で成長してきたECサイトが、オフラインに舞い戻るというのは何とも皮肉な話だが。

ECサイトだからといってオンラインだけで勝負する必要はない。正反対だと思われていた領域に答えが転がっているのはよくあることだ。