2018年より銀座の一等地が公共解放されるのを覚えているだろうか。
銀座にあるソニービルは2017年3月31日に取り壊し、2018年から2020年まで「“新しい次世代の情報発信基地”へと生まれ変わらせる」SONY PARKとすることを発表し大きな話題になった。
SONYの商品紹介を行っているソニービルだが、現在6Fに「書店」が2017年3月末まで5ヶ月間の期間限定でオープン。アパレル業界やECサイトで多い「ポップアップストア」だが「書店」というのは珍しい。いったいどんな店舗になっているのかお話を伺った。
「東京を編集する」。ポップアップストアに込められたコンセプト。
最近、「ポップアップストア」という枠組みでは語れないほど、その概念は色々な業界で認知され始めている。銀座の一等地にそびえたつソニービル、その6Fに位置する本屋EDIT TOKYOもそのひとつ。
ソニービルを上がっていくと、落ち着いた空間が現れる。
「『東京を編集する』をコンセプトに銀座に出店しています。書店にある本3500冊のうち500冊が東京に関する本です。」
下北沢にあるB&Bのポップアップストアという位置づけの本屋EDIT TOKYOは、既存の書店とは一風変わったコンセプト。書籍の販売だけではなく、雑誌編集者や作家のイベントを店内で展開している。
単に「本」というだけでなく、本の読書体験ー好奇心を広げる本との出会い。夢中になって読書した経験。ーを日常のなかで感じてもらうコンセプトがB&Bであり、本屋EDIT TOKYOなのだ。
「B&Bでお客様に好評だった本。そして店舗スタッフがセレクトした本を中心にポップアップストアにも陳列しているんです。」
こだわりの本が店内に並ぶ
本店であるB&Bのコンセプトはそのままに、ただ全く同じではない。そんなバランスで本屋EDIT TOKYOの本が選ばれている。ポップアップストアの出店戦略では「ECサイトと同じコンセプトで」「他のポップアップストアと同じコンセプトで」といった、「お客様に幅広く同一の店舗体験を提供する」場合もある。
一方で「ECサイトといったメインとは違ったコンセプトで」「ポップアップストアごとに少しずつ違ったコンセプトで」といった出店戦略もとられる。
この「ポップアップストアでコンセプトを変える」といった戦略は、ブランドイメージの向上や、今までとは違った新商品の認知、またB&Bのような「コンセプトベースのビジョナリーな企業」で行われることが多い。
ブランドイメージの向上は、ブランド力が大切なアパレル業界や化粧品メーカー。新商品の認知は飲食メーカーやスポーツ商品メーカーといった新商品を多く発売する企業。「ビジョナリーな企業」は大企業でないベンチャー企業が多い。
ポップアップストアは、お店ごとのカラーを変えることができるのも強み。店舗ごとにお店のカラーを変えることで、本店やECサイトといったメインとは一味ちがう演出が可能だ。今までリーチできなかったターゲットや、リーチできているけど「ファン」までにはいかないターゲットを夢中にさせるのに一役買うだろう。
お祭りのような「街の本屋」を目指して
本屋EDIT TOKYOをぐるっと見渡してみると、大型書店のようにあらゆる種類の本が揃えられているわけではないことがわかる。
本棚を彷彿とさせるレイアウトはついつい店内を歩きたくなる。
「B&Bと本屋EDIT TOKYOは『これからの街の本屋』を目指しています。特に目的があるわけではないけれど、時間つぶしで入った本屋。何かのついでにぶらっと立ち寄った本屋。そこでたまたま目にした本たちとの出会いを大切にしているんです。」
たしかに最近古本屋とか、街角にある小じんまりとした本屋が減ってしまった気がする。品揃えが売りの大型書店ばかりが増え、買いたい本はAmazonで買うことができる。目的があって書店やAmazonを見ることはあれど、何の気なしにぶらっと本を見る機会はめっきり減ってしまった。
「手軽か手軽じゃないかって本の面白さとは関係ありませんからね。」
興味がある人でないとふだんは見かけないような人文書が店内には並ぶ。でも、じっくり見てみると興味をそそられる本がたくさんある。最近では自分の興味範囲でしか本を買わなくなってしまった人も多いだろう。しかし「街の本屋」に行けば、インターネットでは出てこない面白そうな本との出会いが待っている。
店内には、雑誌や小説、人文書、ファッション誌などが並ぶ。
ポップアップストアには、ついつい「立ち寄ってみようかな」という魅力がある。それは店舗自体がイベントのようなものだからだ。駅前の大道芸やインディーズバンドのライブがやっていると、別に興味がなくても足を止めたことがある経験があるだろう。ポップアップストアには、それと同じような魅力があるのだ。
ポップアップストアを成功させるためのポイントとして「お祭り感の演出」が大切だ。単なる固定店舗ではしにくい「特別感」であったり「好奇心」であったりをいかに演出するか。それはインターネット上でもそうだし、路面でも同じだ。
路面に面したところに、シンプルながらインパクトがある看板が設置されている。
「本屋EDIT TOKYOではお祭りのような本屋を目指して、月曜日と金曜日にイベントを開催しています。ふだん会わないような雑誌の編集者が登壇しており、毎回30〜40人ほどお客様が来てくれます。」
イベントはチケット制で本屋EDIT TOKYO EVENTSページから購入が可能。ふだん表舞台には出てこない編集者を中心に、作家だけではなく医師や芸能人などとの対談イベントが開催されている。
店内をあがると見えるイベントスペース。
ポップアップストアでイベントをすることは多いが、ここまで積極的に様々なイベントを行うのは稀だ。コンセプトがしっかりと存在する本屋だからこそ、登壇者も確保できるのだろう。B&Bでもイベントが毎日といってよいほど開催されており、この部分は本店とポップアップストアでコンセプトが一貫している。
イベントスペース横の壁面には、編集者や作家のサインがずらり。
「本のセレクト、イベント、棚の配列がB&Bと本屋EDIT TOKYOの面白いところ。B&Bの『これからの街の本屋』というコンセプトは受け継いで、本屋EDIT TOKYOのならではの『東京を編集する』というコンセプトが他とは一味違うところです。」
会社には会社それぞれの理念があるように、お店にはお店ごとの、ポップアップストアにはポップアップストアのコンセプトがあるのは面白い。
コンセプトベースのポップアップストアでお客様を夢中に
ポップアップストアごとにコンセプトを変えるのは手間がかかる。コンセプトが一貫している方が効率的だ。しかし、ポップアップストアは、出店地域や出店場所の性質が異なることが多いので、お店ごとに少しずつコンセプトを変えるのは、パフォーマンスをあげる大きな施策だ。
コンセプトの決め方は色々とある。
- 今までリーチできていないけど、リーチしたいターゲットにコンセプトを合わせる。(それから出店場所を決める)
- 集客が見込める出店場所が決まっており、その地域や場所に合わせてコンセプトを決める。
- 会社の理念やビジョンがしっかりしており、新しいビジョンの表現方法としてポップアップストアのコンセプトを決める
- 新商品に合わせてコンセプトを決める
- 今までやっていなかった企画やキャンペーンに合わせてコンセプトを決める
コンセプトの表現方法としては以下が挙げられる
- お店の外観(コンセプトに合った出店場所を選ぶ。ゼロから作る場合は建設業者への依頼)
- 店内装飾やレイアウト
- 店内の商品のセレクション
- PR方法
ポップアップストアのコンセプトの違いは特にアパレルブランドで顕著の見られるようだ。ポップアップストア先進国イギリスでは、外観や内装に非常にこだわっている事例がいくつも見られる。
POP-UP STORE NEWSでは、海外事例を中心にポップアップストアのデザインを紐解いていく記事を近日公開予定だ。楽しみにしておいて欲しい。
■本屋EDIT TOKYO
- 開催期間:2016年11月01日〜2017年3月31日
- 出店場所:ソニービル 6F(東京メトロ銀座駅B9番出口から徒歩1分、JR有楽町駅から徒歩約分)
- HP:本屋EDIT TOKYO:http://www.edit-tokyo.com/、本店B&B:http://bookandbeer.com/about/