アパレル業界やECサイトで「ポップアップストア」が増えている。
ポップアップストアとは
“ポップアップストア(POP-UP STORE)とは期間限定の店舗のこと。催事スペースや駅構内の空いているスペース、空き店舗などに2週間〜1ヶ月程度出店することが多い。ECサイトのオフライン販促、海外ブランドの日本進出、新規キャンペーンのプロモーションなどで多く使われる。”
実際「ポップアップストア」という言葉は知っていても、「どんなメリットがあるか」「自社にポップアップストアは合っているか」が分からないと、費用を投下する気にはならないだろう。
今回は、ポップアップストアの代表的な2つのメリットを解説し、自社にポップアップストアが合っているかのヒントを提供する。
(※業界別のポップアップストア分析記事は12月下旬に公開予定)
ポップアップストアのメリット1:新しい販売チャネルの獲得
ポップアップストアを出店すると真っ先に実感するメリットは「新しい販売チャネル」だ。
単純に販売店舗を増やせる
最もシンプルな理由は単純に販売店舗が増えるということ。ポップアップストアを出店することで、商品販売やサービス提供の場を増やすことが可能だ。
当然店舗を増やしても費用対効果が合わなければ意味はないが、ポップアップストアには「期間限定のため家賃、人件費をコントロールしやすい」という性質がある。そのため撤退が容易なので、立地や店頭販売、ターゲットの感触をテストすることで、成功可能性を上げられる性質がある。
比較的、試行錯誤を行いやすいので、次回はより成功確度が高い出店が可能とだ。ポップアップストアで成果を残した企業のなかには、固定店舗に踏み出するものもいる。
すでに、固定店舗を出店していることが多い飲食業界やアパレル業界にとって、販売店舗を比較的ローリスクで出店できるのは相性が良いだろう。
オフラインの販売チャネルを獲得できる
ポップアップストアのもうひとつの側面としてオフライン販売に進出できるが挙げられる。従来、オフラインの進出は固定店舗が主流でリスクが大きい選択肢だった。固定店舗では「良くなかったので撤退」ということがしにくい。特に今まで固定店舗を持っていない企業にとっては分からないことが多くなかなか踏み出せない領域だったのだ。
しかし、ポップアップストアが浸透しはじめ、スペースを提供する百貨店や店舗が増えるにつれ、オフラインへの進出が容易になる。この市場動向を受け、今までオフラインでの店舗を持たなかったECサイトがポップアップストアを出店する事例が増えているのだ。
Eコマース市場は右肩上がりで増えているが、Amazon、楽天市場、yahooショッピングといった大規模小売店型のECサイトがおり、アパレルではZOZO TOWN、靴ではSHOPLISTといった品目別に特化したECサイトなど競争が激化している。
競合と真正面競争するのではなく、オムニチャンネルの一環としてポップアップストアを選ぶのもありえるのだ。
ショールーミングへの対応
より消費者目線に立つと、購買行動としてoffline to onlineの流れは見逃せない。近年「ショールーミング」が目立ってきている。
ショールーミングとは、欲しい商品をオフラインの店頭で確かめて、価格が安いECサイトで購入するといった消費者行動のことだ。ECサイトでは分かりにくい見た目や色合いの質感といったデザイン性、触り心地や重さ、丈夫さといった機能性、店員による商品解説などを店頭で確認し、より価格が安いECサイトで購入する。
ショールーミングは至極合理的な消費者行動だろう。店頭で欲しい商品があれば、ECサイトでは分かりにくい質感や機能性を確かめた上で、店頭より安いECサイトで購入する。オフラインの店頭とECサイトの良いとこ取りだ。
もし自社がECサイトを運営している場合、ショールミングをうまく取り入れることができる。自社ECサイトで取り扱っている商品をポップアップストアで体験してもらい、より消費者が商品やサービスを実感できる環境を提供できるのだ。
例えば、先日取材したビーズクッションブランドyogiboでは、ポップアップストアを多店舗展開することで、ECサイトでは分からない「触感」を体験する環境を作っている。
ECサイトでyogibo商品を購入したいが、実際触って確かめてみたいというonline to offlineとポップアップストアでビーズクッションを体験し、ECサイトで購入するというoffline to onlineを両方取り入れている形だ。
ショールミングへの対抗という意味では、実際に体験してみないと消費者が購入に踏み出しにくい商品や、機能が多くなかなか価値が分かりにくい商品を扱っているECサイトはポップアップストアと相性が良いだろう。
ポップアップストアのメリット2:ブランド・新商品の認知
ポップアップストアの「新しい販売チャネルの獲得」という性質は、売上に関してのメリットだが、より販促目線のメリットもある。
ポップアップストアは固定店舗と比べて、期間限定な分、企業のカラーや商品イメージを全面に打ち出しやすい。また、期間限定のポップアップストア自体にイベント性や話題性が含まれているので、口コミの拡散やメディアへ取り上げられやすく、バイラルマーケティングの一環として行うことができるのだ。
ポップアップストアを通して、企業や商品のストーリーを消費者に知ってもらうことが可能となる。
ポップアップストア独自のコンセプトを打ち出す
日本ではまだまだだが、ポップアップ先進国のイギリスをはじめとした欧米諸国では、店舗の外観や内装に非常にこだわっていることが多い。
海外ファッションメディア、TREND FUNTER FASHIONがまとめたポップアップストアのギャラリーを眺めるだけでも、SNSにシェアしたくなるようなポップアップストアであるのが分かるだろう。38 Interactive Pop-Up Shops(via by TREND FUNTER FASHION)
ここまでこだわらなくても、ポップアップストアで打ち出すイメージを事前に決めるのは大切だ。分かりやすい例ではハローウィーンやクリスマス仕様の内装を施すだけでも大きく違う。期間限定のイベントに出店するのもありだ。「商品がイベントにぴったり」ポンパドールのポップアップストア事例
より強くイメージ訴求をしたいなら、他にはないポップアップストアのコンセうとを設定する必要がある。赤を基調とした内装で「口紅の赤」と「京都の紅葉や鳥居の赤」を合わせて、「色」を全面に押し出したCHANELの「ル ルージュ エ アカ」(via by FASHION HEADLINE)。
ポップアップストアにひとつの商品しかおかず、店舗全体を「靴箱」にしたadidas(via by GIZMODO US)などはコンセプトからこだわり抜いたポップアップストアだ。
このようにポップアップストアのコンセプトを打ち出でば打ち出すほど、ブランドを知ってもらえたり、商品のイメージが伝わりやすくなる。さらに他にはないポップアップストアを追求すればするほど、口コミで拡散されたり、メディアに取り上げられたりとバイラルマーケティングの成功確率が上がる。幸い日本では、ポップアップストアはまだまだなので、差別化しやすいだろう。
拡散させるキャンペーンを打ち出す
店舗の外観や内装にこだわるほど予算がない場合は、キャンペーンや企画次第で口コミ拡散し、ブランド・商品認知を狙うことができる。
そもそも、ポップアップストア自体に話題性があるので比較的拡散されやすいが、更なる拡散を狙うことができるのだ。
まさに直接拡散を狙った事例が、冷凍食品販売会社Birdseyeがロンドンに出店したポップアップストア。自社商品を使った料理を提供するレストランだが、支払い方法が面白い。お金で支払うのではなく、Instagramに料理の写真を投稿するのだ。
料理をオーダーし、#BirdsEyeInspirationsのハッシュタグをつけてInstagramに投稿することで無償になる。
この事例は、売上を完全に無視した商品認知を目的としたポップアップストアと言えるだろう。
より単純な例では、店内商品の写真撮影をOKとしたり、SNS投稿で割引するキャンペーンを実施したり、リツイートやシェア数によって割り引いたりするのも有効そうだ。
ポップアップストアには売上と認知、2つの側面がある
ポップアップストアには大きく分けて、「新しい販売チャネルの獲得」という売上の側面と、「ブランド・商品認知」といった認知の側面がある。
両面ともに更に因数分解はできるものの、突き詰めてみれば2つのメリットに帰着する。ポップアップストアを出店する際に大切なのは「売上と認知どっちが目的なのか」について時間をかけて議論することだ。
ここをおざなりにすると、どっちつかずの中途半端なポップアップストアになり、メリットを最大限享受できないだろう。売上と認知のどちらの優先度が高いか把握しておこう。
もし、売上を重視するのであれば、より出店場所選びが大切になってくる。また認知を重視するのであれば、よりキャンペーンや企画に時間を割くべきだ。
出店場所選びもキャンペーン・企画も考えなければいけないものの、割くべき時間は売上重視か認知重視かで大きく変わってくる。出店場所ひとつとっても別の記事で詳しく解説するが、今までと同じダーゲットを狙うった場所の方が良いか、今までとは違うターゲットを狙らった方が良いか変わってくるのだ。
ポップアップストアのメリットが分かったら、自社がポップアップストアに向いているか判断し、売上重視か認知重視かを決める。二兎追うものは一兎をも得ずだ。