中村キース・ヘリング美術館のポップアップストア戦略事例

国内外で根強い人気をほこる「キース・へリング」の世界観を新宿でも楽しめる。

キース・へリングの作品を集めた「中村キース・へリング美術館が、 新宿マルイアネックスでポップアップストアを出店している。

どうして美術館がポップアップストアを出店したのか、ポップアップストアにはどういう狙いがあるのか、お話を伺った。

ポップアップストアの難しさ。「限られたスペースでいかに世界観を表現するか」

2016年12月1日(木)~25日(日)、新宿マルイアネックス2Fエレベーター横で中村キース・へリング美術館のポップアップストアが出店されている。店内ではキース・へリングのアートをあしらった様々なグッズが販売されている。

キース・ヘリングは、アンディー・ウォーホルやバスキアなどと同様に、1980年代のアメリカ美術を代表するアーティスト。わずか31年という短い生涯にたくさんの作品を世に残した。亡くなった後も、たくさんの人が彼の作品、そして彼自身を愛してやまない。そんな影響力のある人だ。

「キース・へリングは、アートは大衆のものであるべきだ。と考えていました。人種・性別・年齢といった枠を超え、あらゆる方が共感出来るアートを制作することを目指していました。彼が亡くなった後もたくさんの方に愛されるのは、そういった理由からではないでしょうか。」

ミュージアムショップマネージャー、齊藤智仁さんは熱く語ってくれた。

「キース・へリングは1988年にHIV感染と診断されました。1990年に彼が亡くなるまで、児童福祉団体や、エイズ関連組織のための慈善活動にも積極的だったんです。」

img_20161210_152327_fotor

キース・ヘリングの活動には、「アートはみんなのもの」という一貫した思考が感じられる。

1980年、階級や人種の差別がなく、誰もが利用する地下鉄での黒い広告版に、チョークで絵を描いた。彼の名が知れ渡るにつれ、その絵を盗んでは売出す者が現れたため、1986年に、彼は自分でデザインした商品を販売する”POP SHOP”をオープン。

”POP SHOP”は芸術活動の一環としてあるべき空間を意図しようとした。裕福な美術蒐集家だけではなく、一般の人々がアートを楽しむ場であり、ストリートの子供たちも来れる、そんな場所だ。

彼の生涯と活動には確固たる信念があった。だからこそ、その世界観を表現するのに力を入れてきたそうだ。

「中村キース・ヘリング美術館内にあるミュージアムショップでは、キース・へリングのドローイングのパターンを復元し、当時の”POP SHOP”店内を象徴的に再現しています。」

%e7%ab%ad%ef%bd%a9%e7%b9%a7%ef%bd%ab%e7%b9%9d%e8%bc%94%e3%81%89_fotor

「しかし、今回のようなポップアップストアでは、下記られたスペースの中で館内ミュージアムショップの世界観を表現したかった。そこが最も苦労したところです。」

ポップアップストアのコンセプト設計には大きく分けて2つの方法がある。

  1. ポップアップストアごとにコンセプトを変更する
  2. どのポップアップストアも同じコンセプトにする

特定の商品を売り出したいとき、プロモーションしたいときには、その商品に合わせたコンセプトをポップアップストアごとに設計する事例が多い。単純な例でいえば、商品のイメージカラーで外観や内装を統一するなど、「ポップアップストアに入店するだけで、その商品をイメージすることができる」ようにするのだ。

一方で、中村キース・へリング美術館のように全体のコンセプトがしっかりとしている場合は、すべてのポップアップストアのコンセプトを同じにする事例が多い。どの店舗に行ってもファンが楽しめる、初めて知った人がその世界観に触れられる。そんな店舗設計だ。

「ポップアップストアのスペースは、壁で囲われていないオープンスペースでした。そのため内装で世界観を演出するのは困難でした。そこで、販売しているキース・へリングのグッズで世界観を表現しようと考えたんです。」

img_20161210_145251_fotor

ポップアップストアのスペースには、お店を建設したり改築したりする「店舗型」、壁で囲われている「ショップインショップ」型、壁がないオープンスペース型がある。

店舗型の場合は、外観から内装まで自由にコンセプトを表現でき話題性は抜群。しかし当然コストは大きい。

ショップインショップの場合は、内装をある程度変更できるのでコンセプトを表現しやすい。一方で外観は変更しにくいので、もともとのショップとコンセプトが似ている出店場所選びをする。

オープンスペース型は、コンセプトが一番表現しにくいが、壁がないので気軽にお客様が立ち寄りやすく、コストが安い。

「ポップアップストアは1Fから2Fに渡るエスカレーターのすぐ近く。反対側の3F」から2Fに降りるエスカレーターのすぐ近くでもあり、縦長のオープンスペースです。エスカレーターから来る人が『あれってキース・へリングじゃない?』とか『何か面白いデザインだね』と思ってくれるような商品配置にしました。」

img_20161210_155031_fotor

「また商品のセレクションにも力を入れました。中村キース・へリング美術館でもグッズ販売をしていますが、そのなかでもキース・へリングの世界観・アート性が伝わるグッズを集めています。ポップアップストア自体で世界観を表現するのは難しいですが、グッズを通じてキース・へリングの世界観が伝えることができているかなと思います。」

オープンスペースなどポップアップストアの外観や内装を変更するのが難しい場合は、販売する商品を通じてコンセプトや世界観を表現することができる。

  • 商品配置にも
  • 取り扱い商品のセレクション
  • 店頭に出す商品の量

によって商品を通じたコンセプト設計が可能だ。

ポップアップストアの目的は美術館の認知です。

ポップアップストアで販売されている様々な、たくさんのグッズ。特に人気なのがスマホケースだ。

「キース・へリングのアート作品があしらわれているスマホ―ケースは特に人気です。キース・へリングのファンの方は『ふだん使えるものでキース・へリングを感じられるのは嬉しい!』との声を頂いています。またポップアップストアでキース・へリングをはじめて知った方も、そのデザイン性にハマってご購入してくれる方もいます。iPhone7にも対応しているので、多くの方が使いやすいようです。」

img_20161210_144314_fotor

「ただ、グッズが売れるのは大変うれしいのですが、私たちはグッズの売上を重視しているわけではありません。私たち中村キース・へリング美術館は、ひとりでも多くの方にキース・へリングのアート作品の素晴らしさに触れてもらいたいと思っています。ですからポップアップストアの目的は、キース・へリングを、美術館を知ってもらうことにあります。」

物販を行うポップアップストアでは、「売上」という要素と「プロモーション」という要素がある。

売上を重視するポップアップストアは先日取材したYogibo(ヨギボー)のポップアップストアだ。数か月といった比較的長期間の多店舗展開を行い、ポップアップストアを新しい販売チャネルとして位置付けている。

売上とプロモーションをどちらも重視しているのが、同じく先日取材したポンパドールのポップアップストア。クリスマスイベントという売上が上がるシーズンにピンポイントで出店するモデルだ。また、ブレンドハーブティーなど「ハーブティーの楽しさ」を知ってもらい、長期的なポンパドール商品の売上につなげるという、啓蒙・プロモーションの要素もある。

「キース・へリングの名前を知らなくても、アートは見たことがある人は多いように感じます。ポップアップストアに来てくれた方々が『キース・へリングっていうんだ!』とキース・へリングの名前を知ってもらえたら幸いです。」

img_20161210_144730_fotor

「グッズを通じてキース・へリングや中村キース・へリング美術館を知ってもらうことが、ポップアップストアの目的です。ポップアップストアに訪れてくれるだけでも意味があるんです。ふだん『キース・へリング』という名前を見かけることはあまりないと思います。たまたまポップアップストアに訪れた人が、自然とキース・へリングの名前を知って、彼のアートに触れ、彼を好きになってくれるのを見てきました。」

ポップアップストアで感じてもらいたい。あらゆる人のためのアート。

shutterstock_149301761_fotor

ポップアップストアでは、まず「売上を重視するか」「プロモーションを重視するか」決めることが大切。また、プロモーションを重視するとしても中村キース・へリング美術館のように、物販を通じたプロモーションも可能だ。

同じ物販でも、売上重視とプロモーション重視の場合、店舗スタッフのトーク設定も変わってくる。

中村キース・へリング美術館のポップアップストアでは、キース・へリングの歴史的背景、境遇や人物像など、グッズの説明というよりはキース・へリングを伝えるようなトークだった。

もちろん機能性を重視したわけではないグッズではあるが、齋藤さんのトークを聞いていると、「グッズを買いたくなる」というよりは「キース・へリングのことをもっと知りたくなる」という印象だ。

「まるで美術館のようだった」とは言い過ぎかもしれないが、たしかに売上を目的としているというよりは、キース・へリングのことをもっと知ってほしい、ぜひ美術館に訪れて欲しい、というのが目的だと納得がいく。

物販を通じたプロモーションの際は、「お客様がモノを買いに来ている」という前提ではなく、「ふらっと立ち寄っただけ」とか「興味を持ったから何となく立ち寄ってみた」という前提のトーク設計が必要だろう。

店舗スタッフが売上を重視した時点で、トークはセールストークへと変わり、第一優先事項である「プロモーション」の効果が薄れてしまうのだ。

「美術館やポップアップストアを通じて、キース・へリングの想いをたくさんの人に伝えていきたいと思っています。」

想いを何とか表現しようと時間をかけながらも、最後に齋藤さんの想いを伝えてくれた。

「キース・へリングが活動していた当時、商業と芸術の混同は美術評論家たちからの批判の的でした。それでも彼は『1億円のアートを世界の少数のコレクターに売るのではなく、1ドルのアートを1億人に流通させること』を考えていたんです。

ヘリングは10年足らずであれだけの活動をしてみせました。もしも彼が生きていたら、あらゆる媒体を駆使した作品が生み出されているだろうと感じています。」

ポップアップストア情報

img_20161210_144543_fotor

名称

中村キース・へリング美術館 ミュージアムショップ

出店場所

新宿マルイアネックス2Fエスカレーター横

出店期間

2016年12月1日(木)~2016年12月25日(日)

取材協力

中村キース・へリング美術館

〒408-0044

山梨県北杜市小淵沢町10249-7
電話:0551-36-8712